COLUMN

自宅MAエンジニアから学ぶ!
映像作品の「音」を編集できる
環境を作る<3>

2022.02.10

VIDEO SALON ビデオサロン 動画制作をもっとクリエティブに

3回に分けて、主に映像/動画クリエイターに向けてのHowTo記事を掲載します。これは、専門メディアVIDEO SALONと作曲家/MAエンジニアの三島元樹さんにご協力を頂き実現したもので、「自宅MAエンジニアから学ぶ!映像作品の「音」を編集できる環境を作る」と題して、三島元樹さんがVIDEO SALON誌に寄稿された記事の要点を抜粋/編集して掲載します。
今回は第3回目、最終回となります。
これから環境を作ろうと考えている方のほか、すでに環境を作られている方にも参考になるものと思います。
ぜひご一読ください。


三島元樹 プライベートスタジオ 音響補正ツール

VIDEO SALON 2020年12月号、2021年12月号より一部抜粋

三島元樹 (作曲家/MAエンジニア)
個人プロダクションSTUDIO MONOPOSTOを設立し、映画やWEB CMの音楽、企業または個人作家の映像作品への楽曲提供など、映像に関わる音楽を作る傍ら、レコーディング/ミキシングエンジニアとしてアーティストのレコード制作に参加したり、映像コンテンツのMAなども手がける。2020年に玄光社から「映像制作のための自宅で整音テクニック」を刊行。
三島元樹


映像作品の音を自宅環境で正しくモニタリングするにはどうしたらいいのでしょうか?前回までルームアコースティックの重要性についてご紹介しましたが、最終回の今回は、音響補正ツールをご紹介します。


音響補正ツール

ルームアコースティックの調整は、吸音や遮音、機材の配置など物理的な対処で行うのが基本。しかしながら賃貸物件などでは限界がありますし、施工するにも100万単位でお金がかかります。本格的なスタジオ運営をするならいざ知らず、自宅はアトリエ的な仕事場にして、本格的なスタジオが必要ならそのときに都内のポスプロを借りればいい……という僕のような人にとっては、なかなかそこまではできません。とは言え、お金をもらって仕事する以上、それに見合ったクオリティのものを納品しなければなりません。そのためのルームアコースティックの調整は最低限行うとして、それだけでは詰められない部分を助けてくれる便利なツールがあるのでご紹介していきます。

みなさんは音響補正ツールというものをご存知ですか?なんと部屋の響きを測定した結果を基にフラットな周波数特性になるように補正してくれるのです!こういった音響補正ツールは、以前は高価なハードウェアで専門の技術者が測定にやってくるという、導入のハードルがちょっと高いものがほとんどでした。しかし、現在はスピーカーやアンプ自体にその機能を内蔵した製品を出してるメーカーがあったりなど、随分と導入しやすくなってきました。

  • GENELEC 8320APM
    GLM Studio (約16.5万円)

    スタジオでも定番のGENELECサウンド。
    基本、派手めな音だが補正で素直な出音に。

    GENELEC 8320APM GLM Studio
  • IK MULTIMEDIA
    iLoud MTM (約6.2万円/1本)

    小型軽量なので、気軽に持ち運べる。
    出音のバランスも良く、とても優秀なスピーカー。

    IK MULTIMEDIA iLoud MTM

その中でもソフトウェアのものは価格も安く、手軽に使い始めることができるので、徐々にユーザーも増えてきているようです。ちなみに僕が使っているのはSonarworks Sound ID Referenceというソフトウェアです。

  • Sonarworks Sound ID Reference (約4.3万円)

    Sonarworks Sound ID Reference

    専用マイクとのセット。ヘッドホン補正のみに対応した下位バージョンもあり。プラグインとしてDAW上で使えるだけでなく、OS常駐型のアプリもあって音楽再生ソフトやOSのアラート音までも補正できる。

  • IK MULTIMEDIA ARC System 3 (約3.6万)

    K MULTIMEDIA ARC System 3

    こちらはプラグインのみで、比較的安価なのが特徴。

興味ある方は、文末に記載のVIDEO SALON誌や書籍も御覧ください。


音漏れや外からのノイズを防ぐには防音ブースしかない

〜筆者のTRACKに対する感想〜

ここまでルームアコースティックの調整についてお話ししましたが、それでも解決できないのが外から入ってくるノイズ。これの対策には本格的な防音施工が必要になってしまい、かなりハードルが高くなってしまうのが実情。組み立て式の防音ブースという手もありますが、結構高いし、部屋も狭くなってしまう……。しかし、やっぱり憧れますよね、防音スタジオ。賃貸の防音マンションもいろいろありますが、音大周辺にしかなかったり、そもそもそんなに防音性能が高くなく、結局は音漏れに悩まされることも……。実際、そういった問題で苦労してる知人友人は多いんです。

そんな中、クリエイター向けのデザイナーズ防音マンションができるという話を耳にしました。長谷工不動産が手がける「TRACK」というマンションで、向ヶ丘遊園と両国に。クリエイター向けってどういうこと? って思ったんですが、ユーザー本意の仕様になってて驚きました! 個人的にグッときたポイントもまとめてみます。

作曲家・MAエンジニアの僕がTRACKがスゴイ! と思ったところ

・全室防音仕様で、隣室(防音室→防音室)へは-80dB、上下階へは-75dB、窓の外へは-45dBという高い防音性能。
・壁コンセントの数が多く、電圧も100Vに加えて海外製機材や大型アンプにも安心な200V(アース端子付き)も用意。
・家庭用電源と機材用電源は子ブレーカーを分けてノイズ対策されている。
・一般の賃貸ではまず不可能な壁への釘打ちが可能なエリアがあり、モニター画面や吸音パネルの設置も可能。
・エントランスには入居者が自分の作品を公開できるディスプレイやスピーカーが設置されている。

防音設備

ここまで電源にこだわってるマンションなんて聞いたことないです。 あとは、エントランスの作品公開設備も興味深いですね。作品は発表してナンボ。誰でもネットで全世界に作品を発信できる時代ですが、いったいどれだけの人がちゃんと見てくれるのか……。だったら、確実に見てくれるマンション入居者に向けて発信するのも一興じゃないでしょうか。それがきっかけでコラボすることになったり、仕事に繋がったりすると楽しいですよね!どんなに通信インフラが発達しても、リアルな交流の力や魅力は変わらないでしょう。個人的には、入居後に交流が広がる仕組みがあると面白いと思いますね。

TRACK 両国

立地に関しても、メインとなる活動範囲(東京の東側と西側)によって選べますね。日本史好きな僕にとっては、両国はすごく惹かれます。この界隈はここ10年くらい散歩し続け、もはや勝手知ったる土地。国技館や旧安田庭園、江戸東京博物館、すみだ北斎美術館、刀剣博物館など、日本の歴史と文化を感じられる施設も多いし、「鬼平犯科帳」などの池波正太郎作品でたびたび舞台となっているので、歴史小説好きなら聖地巡りもできます。そういった歴史を感じるものだけでなく、界隈には、一般的にはご法度なピアノのプリパレーション(弦にネジやゴムなどを挟み込んでガムランのような音を出す手法。プリペアド・ピアノ)や内部奏法(弦やフレーム、響板などを直接触って音を出す奏法)がOKなコンサート会場があったり、定期的に隅田川沿いのテラスにストリートピアノが設置されたりなど、音楽文化的にも面白いエリアだと思います。お隣の錦糸町には日本屈指の音楽ホール、すみだトリフォニーホールもありますしね。あと、たい焼き発祥の店として有名な浪花屋(麻布十番の浪花屋総本店の暖簾分け)もあったりと、グルメ系も充実。なんだか個人的趣味全開で音楽ネタ中心になってしまいましたが、映像クリエイターにとっても魅力ある土地だと思います!

向ヶ丘遊園は、個人的にあまりご縁のなかった土地なので残念ながら熱く語れないのですが、新宿や渋谷へのアクセスが良いので、その界隈で活動する人には魅力的ですよね。それぞれの物件は、その土地に合わせた外観や内装になっている点にもこだわりを感じます。

TRACK 向ヶ丘遊園

クリエイターの夢を叶えるようなスペック、夢が膨らむこの物件。ぜひチェックしてみて欲しいと思います!


『「音」を編集できる環境づくり』に興味ある方は、以下のVIDEO SALON誌や書籍もご御覧ください。


  • 長谷工不動産