Menu

NEWS&COLUMN

ニュース&コラムNEWS&COLUMN

【音楽家インタビューVol.1】
運命に導かれて
ミュージカルピアニストの道へ

TOPICS2019.04.05
image

将来音楽家として身を立てるために、学生時代からどんなことに取り組めばよいのでしょうか。本企画では、さまざまな場所で活躍中の若手音楽家の先輩に、夢を叶えるためにどんな努力をしたのかインタビューしていきます。第一回目となる今回、お話を聞かせていただくのは、とあるミュージカル劇団の音楽セクションでピアニストを務める藤城夏芽さんです。

PROFILE

24時間演奏可能な防音ルームで快適な暮らし

藤城 夏芽(ふじしろ なつめ)
●武蔵野音楽大学ピアノ専攻卒業、同大学院修士課程修了。平成22~24年度福井直敬記念奨学生。在学中は専科のピアノはもちろん、学内外で声楽の伴奏を積極的におこない、オペラ伴奏法も学ぶ。現在、ミュージカルの音楽スタッフとして、稽古ピアノや音楽進行を務める。

チャンスを生かして夢の舞台へ

−まずお仕事の内容について教えてください。

「本番に向けて日々稽古があるのですが、その際にピアノ伴奏をしたり、俳優さんに音楽的なアドバイスをしたりする仕事をしています。午前から稽古が始まり、18時頃に終わったあとはひたすら練習をしているので、一日中音楽漬けの環境です」

−ミュージカル俳優さんに音楽に関するアドバイスをするというのは、ものすごいプレッシャーではありませんか?

「プレッシャーはありますが、あくまで『教える』というより『一緒に作っていく』というスタンスなので、とにかく日々勉強ですね。今でこそ4年目になり少し慣れてきた部分もありますが、正直最初は行き当たりばったりでした。ミュージカルは音楽でありお芝居であるので、音楽面だけからのアドバイスをしてしまうと俳優さんの納得を得られないことも多いんです。なので、お芝居の勉強をしたり、いろんな舞台を観に行って引き出しを増やしたり、もちろん歌の勉強も続けて、もっと信頼してもらえる存在になるべく努力しています。あとは俳優さんと一口に言っても、歌・ダンス・芝居と人によってやってきた専門が違うので、それぞれアプローチを変えていかにわかりやすく伝えられるか工夫しています」

−なぜその職を志したのですか?

「小さい頃からミュージカルが大好きだったので、いつかこのような形で携わりたいと夢見ていましたが、こんな求人は滅多に出るものではないので現実的には難しいと考えていました。なので在学中はずっと音楽の教員を目指していて、非常勤講師として働きながら自分の好きな音楽活動も並行してやっていこうと計画していたんです。ところが私が就職活動をしていた年に、数年ぶりに募集が出て……」

−応募したところ、見事に合格したのですね。すごい! かなり狭き門だったと推察するのですが、どんなオーディション内容だったのですか?

「ソロの自由曲の演奏と、初見視奏、コード譜の初見演奏がありました。あとは面接ですね」

−クラシックピアノを勉強している方には、コード譜の演奏はハードルが高いイメージがありますが…。

「私の場合、高校のときからジャズピアノもやっていてコードの勉強を結構していたことが強みになりました。あと、在学中はとにかく将来音楽で食べていくにはどうしたらよいかということを考え、クラシックに限らずポップス含め幅広く演奏させていただいていたので、その経験も役に立ちました」

−ほかに、今の仕事に就くにあたって役立ったスキルはありますか?

「初見演奏が得意なのですが、今の仕事は一ヶ月で3時間分の伴奏譜を譜読みしなくてはならないため、譜読みの速度という意味で役立っています。小さいころから初見演奏が好きで、大学時代も適当に図書館で小品集を借りてきて弾いてみる、というのを趣味のように続けていました。あと、伴奏系の選択授業をとっていて、声楽の子のレッスンに同席することも多かったので、そのときに学んだことは結果的に今の仕事にかなり直結しています」

−なるほど…。久しぶりに募集が出たこと自体は「運」ですが、そのチャンスをものにできたのはコツコツと将来に向けて取り組まれていたからこそですね。

音楽大学で見つける将来への道

音楽大学で見つける将来への道

−大学時代の過ごし方についてもう少し聞かせてください。藤城さんは学生時代、将来への不安に悩まされたことはありませんでしたか?

「私は元々ソリスト志望ではなかったので、音楽で食べていけるかなというより、音楽で食べていくためにするべきことをしよう、という考え方をしていました。教職だけでなく、とれる授業は全部とりましたし、将来の仕事につながればと思い、いろんな先生のところに顔を出して人脈を広げることにも力を入れました。あとは誰かと共演する機会をたくさんもったこともよかったと思います。仕事は対人なので、演奏を通じてコミュニケーション能力を育てられたことが今に生きていると感じます」

−「音楽を仕事に」という部分はぶれなかったのですね。

「私の場合は、そうですね。でも、音大生って意志力は強いし我慢強いし努力もできるので、一般企業でもいくらでもつぶしがきくと思っているんです。自分は音楽を仕事にしたいと心に決めていましたが、仮に音楽の道に進まなくても、音大へ進学する意味は十分あると思います」

−その通りだと思います。学生時代の過ごし方について、やっておいてよかったと思うことはありますか?

「とにかく物怖じせず、いろいろやってみたことでしょうか。たとえば、とある声楽の発表会で急きょ伴奏者が必要になったと声がかかったとき、ほぼ初見で伴奏しなくてはならなかったのですが『とりあえずやってみよう精神』で引き受けました。こういったことが、後から考えるととてもよい経験だったなと思います」

−最後に、これから音楽大学へ進む学生さんたちに、応援のメッセージをいただけますか?

「音楽だけに打ち込める4年ないしは6年というのは、かけがえのないものです。練習室にこもってひたすら音楽を突き詰めたり、誰かとひとつの音楽を作り上げたりというのは、なかなか他の大学で経験できるものではないと思います。けれども、社会で必要とされる力ってまさにそういう努力、根性、忍耐力だったりするんですよね。なので、音楽で食べていくのは大変だとか、どうなるか不安という思いだけで将来を諦めてほしくないと思います。ぜひ視野を広くもって、何にでも挑戦してみてください」