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2025.07.10
【PLAY江古田イベントレポート】今田篤講師による「グランミューズ・サロン」
今田篤講師による「グランミューズ・サロン」

2025年5月31日(土)、PLAY江古田サロンホールにて、ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が後援する企画「グランミューズ・サロン」が開催されました。「グランミューズ・サロン」は、講師となるピアニストのもとに愛好家が集いピアノを弾き合う、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。講師は時に実演を交えつつ、演奏について助言しますが、あくまで批評や審査の場ではなく、楽曲、演奏、そして音楽全般について楽しく語らうことが目的です。

今回講師を務めるのは、今田篤さんです。

【今田篤氏プロフィール】

1990年静岡県掛川市生まれ。2018年第10回浜松国際ピアノコンクール第4位、及び2016年世界三大コンクールの一つであるエリザベート王妃国際音楽コンクール(ベルギー・ブリュッセル)ファイナリスト入賞。その他若い音楽家のためのクライネフ国際ピアノコンクール第2位、全日本学生音楽コンクール全国大会第1位、日本音楽コンクール第2位、PTNAピアノコンペティション特級銀賞、東京音楽コンクール第2位等の国内外のコンクールで優勝、入賞多数。これまでにマリン・オールソップ指揮ベルギー国立管弦楽団、ポール・メイエ指揮王立ワロン室内管弦楽団、ロッセン・ゲルゴフ指揮読売日本交響楽団、クラウディオ・クルス指揮リベイラン・プレート交響楽団(ブラジル)、クラウディオ・クルス指揮サンパウロ青少年交響楽団等海外及び国内のオーケストラと多数共演。ソロリサイタルを日本国内及びアゼルバイジャン、ドイツ・フランス・ベルギー・英国にて行い好評を博す。またBrussels Piano Festival, Oficina de Musica de Curitiba, 横浜市国際招待演奏会等の著名な音楽祭にも多数出演。2018年ベルギーショパン協会賞受賞。ピアノをこれまでに寺田美智子、三好のびこ、故堀江孝子、横山幸雄、クラウディオ・ソアレス、伊藤恵、ドミトリー・アレクセーエフ、ルーステム・サイトクーロフ、ゲラルド・ファウトの各氏に師事。東京藝術大学附属音楽高等学校を経て東京藝術大学を卒業。2014年9月に英国王立音楽大学修士課程に奨学生として入学し2016年7月に優秀な成績で卒業。2017年3月に東京藝術大学大学院修士課程を卒業修了時に大学院アカンサス音楽賞及び藝大クラヴィーア賞を受賞。2020年11月ライプツィヒ音楽演劇大学を最優秀の成績で卒業。

新たな視点を投げかける、今田講師の鋭いレッスン

今田篤講師による「グランミューズ・サロン」

「一緒に音楽の楽しさや魅力を共有して特別な時間を作りましょう」という今田講師のメッセージに誘われ集まったのは10名の参加者の方々。お一人ずつ演奏され、それぞれ講師が5分程度のフィードバックをするというスタイルです。この日演奏されたのはスクリャービンのピアノ・ソナタ、ラヴェルの「夜のガスパール」ショパンの大ポロネーズなど難曲ばかり。みなさん熱心にピアノを勉強されている方々で、「とっても緊張して思うように弾けなかった」と悔しさを見せつつも、全体的に非常にレベルの高い弾きあい会となりました。

今田講師のアドバイスで興味深かった点は、たとえばクレッシェンド一つをとってもさまざまなアプローチでアドバイスされるところです。ある参加者さんへは「クレッシェンドの存在には必ず目的があるから、文字や指示だけに引っ張られず、作者がなぜここにクレッシェンドを指示したのか、その意図を考えて表現するともっとおもしろくなる」、別の参加者さんには「クレッシェンドだからといって右肩上がりに大きくしなければいけないわけではない。和声として解決する箇所には表情をつけるのはどうか」、そしてさらに別の方には「自分自身がクレッシェンドに喜びを感じ、その次のスビートピアノに驚きを感じることができれば、演奏にもっと説得力をもてる」とお伝えしていて、クレッシェンド一つでこのように多様に語れるものかと驚くばかりでした。

また、「このDes(レ♭)の音が神々しいですよね、この一音で雰囲気を作れるので大事に」「ここでGdur(ト長調)が誇らしく登場しますよね」と、調性のカラーに言及されていた点も興味深く、参加者みなさんがしみじみと耳を傾けており、プロの演奏家がなぜあれほどまでに表情豊かなのか、改めて気付かされました。

「お一人5分では足りないですね!」と先生も生徒さんも笑い合っていた通り、時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます。それでも限られた時間で一つでも多くのことを伝えようと、内容に軽重をつけてメリハリをつけたフィードバックをしているようすが印象的でした。さらに休み時間や閉会後も質問を受けつけてくださる姿に、生徒さんの助けになりたいという今田講師の熱い思いを感じました。

発表の場を生み出すPLAYシリーズのサロンホール

今田篤講師による「グランミューズ・サロン」

さて、今回グランミューズ・サロンの会場となったのは入居者専用ホール付き物件『PLAY江古田』です。最後に、今田講師にインタビューのお時間をいただきました。

Q
本日のグランミューズ・サロンはどのような点を意識してレッスンされましたか。

「大人の生徒さんの場合、いろいろな経験をされてきていますから、このレッスンに何を求めてるのかという点を考えながらフィードバックするよう心がけました。また、演奏を通してみなさんがどこに力を入れて練習されているのかが伝わってくるので、だからこそあえて、そこは盲点だったと思ってもらえるような、新しい視点を投げかけるようにしています」

Q
今回初めて『PLAY江古田』にお越しいただきましたが、ぜひ物件のご感想をお聞かせください。

「ホールがあって、スタインウェイのピアノがあって、上には住居があって……理想的ですよね。住みたいです(笑)。ホールのピアノも、ホールに対してのサイズ感がちょうどよくて、音に色や艶があると感じました」

Q
もし学生時代にPLAYに住んでいたとしたら、ホールをどのように活用しますか?

「もちろん練習にも使いますし、同級生を呼んで弾き合い会をやったと思います。弾き合い会は実際に学生時代によくやっていました。お互いに弾いて、意見出し合って交流するのが楽しかったですし、他の人の演奏を聞くことでモチベーションがアップしたり、曲に対する他の視点を見つけるきっかけになったりして、有意義でした」

Q
自宅や練習室で弾くのとはやはり違うのでしょうか。

「普段使っているのとは違うピアノを弾けるところがいいですね。ピアニストは自分の楽器ではなく、会場にあるピアノを弾くので、普段とタッチ感が異なるピアノを弾くことになります。どんな響きでも対応できるよう、さまざまなピアノに慣れておく訓練が必要なんです」

Q
PLAYシリーズは居室が全室完全防音で、24時間演奏可能です。24時間演奏可能という点に魅力はありますか?

「そうですね、わたしは特に夜型というのもあって、夜に集中力を発揮することが多いので、24時間演奏可能だと安心感があります。イギリス留学時代は22時までしか演奏できず、ドイツ留学時代にいたっては家にピアノがなく、学校でしか練習できなかったので、いつでも練習できる環境のありがたみはよくわかります(笑 )。社会人になってからはあまり夜更かしはしませんが、逆に早朝に起きて練習することがあるので、やはり24時間演奏可能であれば、大きい助けになります」

多くの本番を経験し、音楽を通して自己表現を。

今田篤講師による「グランミューズ・サロン」
Q
先生は教職にもつかれていてたくさんの学生さんと接する機会があるかと思いますが、学生時代にしておくべきことや、ご自身の経験からやっておいてよかったと思うことはありますか。

「わたしは当時、ソロを中心に勉強していて他の楽器の学生との交流が少なかったのですが、当時からもっと交友関係を広げて、ピアノ以外の楽器や専攻から音楽を学ぶことができたらよかったなと思います。ピアノはやや機械的に演奏しがちな一方、他の楽器からはもっと自由で違った可能性を感じることができるんですよね。直接的に役に立つかはわからないですが、ピアノは機能的にはいろいろな楽器を模倣できますから、他の楽器の知識を深めることで表現の幅が広がると思っています。

また、学生時代はもちろん練習も大切ですが、舞台の場数を多く踏んで、常に演奏を通して自分自身を表現していってほしいです」

Q
先生は今日のレッスンでも「緊張するのも貴重な経験」とおっしゃっていましたが、こうした発表の場では何が学べますか。

「人前で弾くことへの恐怖心を少しでも克服できると思います。音大生でも、卒業後に人前で弾く機会が減ると一回一回の本番が怖くなることがあるんです。仮に思うように弾けない部分があっても、課題を自覚することが成長の機会だと思います。わたしも、家で家族に演奏を聴いてもらうなど工夫を重ねています」

Q
最後に、音楽の道を志す若手音楽家に向けてメッセージをお願いします。

「時間のある若いうちに、なるべく多くの曲をさらって、レパートリーを増やしたり、譜読みの訓練をしたりすることが、必ず将来役に立ちます。社会人になるとなかなか時間を捻出するのが難しく、わたしも『時間さえあればあの曲もこの曲も演奏してみたかった』と思いながら葛藤するときがあります(笑)。ですから、ぜひ学生のうちにたくさんの曲に触れてほしいと思います。学生料金という特権を活用して、他の人の演奏もぜひたくさん聴きに行ってください」

グランミューズ・サロンを主催するのは初めてだという今田講師ですが、会の終わりに「すごく勉強になりました」と受講生の方の声がたくさん聞こえてきました。前半・後半の2部に分かれていましたが通しで聴講される方も多く、みなさんが今田講師のアドバイスに熱心に耳を傾けられていたのが印象的でした。PLAYシリーズはこれからも、音楽を愛する方々に寄り添ってまいります。