COLUMN

コラム

2025.09.25
【PLAY新丸子イベントレポート】西本夏生講師による「グランミューズ・サロン」
西本 夏生(にしもと なつき)

2025年8月23日(土)、PLAY新丸子サロンホールにて、ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)が後援する企画「グランミューズ・サロン」が開催されました。「グランミューズ・サロン」は、講師となるピアニストのもとに愛好家が集いピアノを弾き合う、ピアノを通じた新しい大人の交流の場です。講師は時に実演を交えつつ、演奏について助言しますが、あくまで批評や審査の場ではなく、楽曲、演奏、そして音楽全般について楽しく語らうことが目的です。

今回講師を務めるのは、西本夏生さんです。

西本夏生氏プロフィール

北海道出身。早稲田大学卒業、東京藝術大学大学院修了。スペイン・カタルーニャ高等音楽院、カステジョン高等音楽院の両修士課程修了。第1回サン・ジョヴァンニ・テアッティーノ国際ピアノコンクール(伊)第1位等、数多くの国際コンクールにて入賞を果たす。作曲家N・カプースチンと直接の交流を持った数少ない日本人ピアニストの一人であり、op.145,146の2曲を献呈されている。2017年にはS.ブロトンス指揮、バルセロナ市ウィンドオーケストラとの共演でカプースチン「ピアノ協奏曲第6番」ヨーロッパ初演を行った。2020年世界初録音となるスペインの作曲家P・ヒメノの作品「演奏会用リズム・エチュード 第1集・第2集」(ALM) を制作し、クラシック音楽ながらJAZZ的要素のある鮮烈なピアニズムが注目される。その他「1122-カプースチン4手ピアノ作品集-」(BRAVO records)をピアノデュオpiaNA名義で、また2023年にはピアニスト青柳いづみことのCD「カプリス-気まぐれ-」(ALM)等をリリース。PMF(日本)、Podium Matadepera(スペイン)、Piano Pic(フランス)等の音楽祭に出演。国内外にて幅広く活動を続けている。日本スペインピアノ音楽学会理事。白梅学園短期大学講師。

参加者のニーズに寄り添う、有機的なレッスン

西本 夏生(にしもと なつき)

今回がグランミューズ・サロン初主催となる西本講師。開始時間になるとまず、参加者のピアノ歴や申し込んだ理由などバックグラウンドの聞き取りからスタートします。聞けば、多くの方がお仕事や子育てをしながらピアノに取り組まれていて、練習時間を確保することも簡単ではないそうです。それでも「西本さんの演奏が好きなのでレッスンをぜひ受けたいと思った」と、みなさんやる気と期待に満ち溢れていらっしゃいます。

西本講師の得意分野に寄せて曲を選んできた方や、今回は事前に西本講師から「(講師との)連弾も可能」とアナウンスがあったため、連弾をさらってきた方もいて、バラエティに富んだ演奏が次々と披露されていきます。西本講師のフィードバックは、演奏がますます楽しくなりそうなものばかり。たとえば「フレーズ一つをとっても、怒っているように、悲しんでいるように、楽しげに、などいろいろなキャラクターで表現することができるから、どんなキャラクターでこのフレーズを表現するのかを模索してみましょう」というアドバイスには、同じ曲でも弾く人によってさまざまに表情を変えられるんだ、と気づかされます。

また、楽譜に示された指示や音符には必ず作曲家の何らかの意図があるとし、「自分が腹落ちしていない音は相手にも伝わらない。自分がこういう音でこういう響きだ!とわかっていると聞き手にも伝わる」とアドバイスされていて、演奏における「自分らしさ」を考えるよいきっかけになりました。

レッスンしながらも、「弾いていて困難なところとか、お困りのことはありますか?」と生徒さんに質問を投げかけ、生徒さんに寄り添う西本講師。限られた時間の中でなるべく学びをもって帰ってほしいという気持ちが伝わってきます。「鋭い音色が個人的に苦手なので、全体的に柔らかい音色ばかりの演奏になってしまう」と打ち明ける生徒さんには、「鋭い音が苦手なら、音を鋭くする方向は避けてもいいと思います。それでも、音の強弱を作ることや和声の中で音色を作り分けることで表情をつけることができる」と一歩踏み込んだアドバイスをされていました。

最後は、講師による演奏です。「楽譜を見ながら聴けるとよい勉強になるかもしれないから、ぜひこちらに来てください!」ということで、みなさんで講師を取り囲んで演奏を聴くスタイルに。ノリのよい演奏にみなさんの体も自然に揺れる、そんなすてきな一体感を楽しみつつ、イベントはお開きとなりました。

西本 夏生(にしもと なつき)

夜の練習にも対応できる24時間演奏可物件

さて、今回グランミューズ・サロンの会場となったのは入居者専用ホール付き物件『PLAY新丸子』です。最後に、西本講師にインタビューのお時間をいただきました。

Q
今回初めて『PLAY新丸子』にお越しいただきましたが、ぜひ物件のご感想をお聞かせください。

「ホール付き物件、よいですね。わたしがもし住んだとしたら…定期的に小規模な弾き合い会をしたり、本番前の上がり止めに使ったり、逆に生徒さんが本番前という場合にも、いつもと違う環境で弾く練習をしてもらったり、いろいろと思い付きます。もちろん、室内楽の練習にもすごくちょうどよいサイズ感ですよね」

Q
PLAYシリーズは居室が全室完全防音で、24時間演奏可能です。24時間演奏可能という点に魅力はありますか?

「わたしは真夜中に練習したいタイプなので、24時間演奏可能はもちろん魅力的です。音楽家は夜行性の方も多いですからね(笑)」

Q
深夜に集中力が増すのでしょうか。

「それもありますが、日中は打ち合わせが入ったり、レッスンもあったり、また6歳の子供もいますので、練習時間が夜の時間帯になってしまうことがどうしても多いこともあります」

Q
学生時代はどのような住環境だったのですか?

「早稲田大学時代は、学業と並行して個人的に先生についていたのですが、家には電子ピアノしかありませんでした。今日の参加者さんの中にも、電子ピアノで練習しているという方がいらっしゃいましたが、当然電子ピアノと生ピアノの感覚はまったく違うので、練習には工夫が必要です。芸大の院に進んでからは、さすがにピアノを搬入できる部屋を借りましたが、防音というわけではなかったので、ご近所さんから苦情を受けたこともあります。ですが、謝罪のうえで事情を話したら、その後は応援してくださるようになり、とてもありがたかったです。つまり、たまたま恵まれた環境だったというだけのことなので、ちょっとあまり一般的には参考にならないように思いますが...」

参加者と作るレッスン、共演者と作る演奏

西本 夏生(にしもと なつき)
Q
グランミューズ・サロンをされてみて、いかがでしたか。

「参加者の方々のおかげですごくよい時間になったと思います。少人数制で、お互いに近い距離で演奏を見聞きするので、どんな参加者さんが集まるかによって、かなり会の方向性が変わりそうだと感じました。何が起きるかわからないというか、柔軟性のある出来事でおもしろいなって。今日は初主催だったこともあって、みなさんにグランミューズ・サロンとはどのようなものか教えていただいたような感覚です」

Q
普段小さいお子さんから大人の方まで、幅広い方に教えていらっしゃると思いますが、今回のグランミューズ・サロンで特に気をつけたことなどはありますか。

「参加者の方々が何を求めてきてくれているのか、できる限り汲みとりたいと思っていました。限られた時間の中でここに来てくださるということは、やはりお一人お一人に何か求めているものがありますよね。でも大人の方々ですから、もし期待とはずれたフィードバックを受けたとしても、きっと空気を合わせてくださってしまう。だからこそそうならないように、初めにみなさんの音楽歴や目的などを伺って、目的に合わせた的確なレッスンができればと考えていました」

Q
今回は連弾のレッスンもあってとても楽しく印象的でした。

「わたしは連弾の経験が豊富なほうなので、もし連弾されたい方がいらっしゃればぜひと思い、募集させていただきました。連弾でレッスンを受ける機会って実はそんなに多くないですよね。連弾のレッスンのおもしろいところは、一緒に弾いていると、その方の弾き方が直によく伝わってくるところです。そして、こちらも一緒に演奏していく中で、曲想や方向性をダイレクトに伝えることができます。私自身もとても楽しかったです」

Q
最後に、音楽の道を志す若手音楽家に向けてメッセージをお願いします。

「ピアニストはどうしても、一人部屋にこもって練習する時間が長くなりますよね。もちろん、それでしか身につかないテクニックや音楽性もあります。ですが、ぜひ外に出て、アンサンブルの機会をたくさんもつことも、とてもよい経験となっていくということを知ってほしいなと思います。もちろんレッスンを受けることも大事ですが、先生はある意味、答えを与えてくれる存在ですよね。ですが、卒業して独り立ちすると、いつまでも誰かが答えを与えてくれるわけではなく、共演者と一緒に曲を作り上げていくことになります。そういう場面で、自分の表現したいことを言語化したり、コミュニケーションを通して意見をまとめていったりする経験がとても重要になります。私自身も、スペインに音楽留学して、オープンに話し合うカルチャーに触れるまでは、その重要性や楽しさに気づいていなかったように思います。文化が違うからこそ、音楽を通して意見交換をできることが楽しかったです。アンサンブルができると演奏でできることの幅も広がるので、ぜひ挑戦してみてください」

西本 夏生(にしもと なつき)

お話しを伺っていると、西本講師はレッスンをする上でも演奏をする上でも、相手とのコミュニケーションと化学反応を重視しているということが伝わってきました。「これはこう!」と決めつけるのではなく、相手のニーズを汲み取ったり会場の空気を読んだりすることで、まるで生き物のように鮮やかな音楽が生まれるのだと感じました。

ところで、継続してグランミューズ・サロンを取材させていただいていると、同じ参加者様に再会できることがよくあり、みなさんにお会いするたびに着実に演奏がレベルアップしていることに驚かされます。大人の方が多忙な毎日の中で練習を続けることは簡単なことではありません。音楽に対する深い愛に触れることができ、ひそかに感激しております。PLAYシリーズはこれからも、音楽を愛する方々に寄り添ってまいります。